らんびきとは、日本の江戸時代に焼酎などのお酒や化粧用の芳香蒸留水を作るのに用いられた陶器製の器具です。漢字で「蘭引(らんびき)」とも表記されます。
らんびきの原型は9世紀のイスラムで発明された「アランビック蒸留器(Alembic)」と呼ばれるもので、らんびきの名前もこれに因んでいます。ただし、アランビック蒸留器とらんびきの形状は異なっています。らんびきは熱水蒸留法と呼ばれる3段重ねの器具で、最下段に原材料(植物)と水を入れ、加熱し、芳香を含んだ水蒸気を最上段に入れた氷で冷却して、中段の口から香りの露を抽出します。
アランビック蒸留器を始めて使用したのは古代ペルシャの錬金術師で、中世では科学者・医学者・哲学者であったイブン=シーナ(イブン・スィーナー、アビセンナ、アウィケンナ)【980〜1037】がこの蒸留器を使ってバラ水やバラ精油の抽出を行いました。アランビック蒸留器は2つのフラスコを管でつないだ形をしており(↑上記画)、原材料と水が入ったフラスコ側を加熱することで発生した蒸気が管で冷却されて、もう一つのフラスコに蒸留水が溜まる仕組みになっています。らんびきが陶器製であるのに対して、アランビック蒸留器は銅で作られており、これは金属による抗菌性を期待したものだと言われています。アランビック蒸留器の発明のおかげで、アルコール(酒、消毒用)が作られるようになり、一方で精油や芳香蒸留水が得られることで、それらはヨーロッパの香水文化の発展につながっていきました。
らんびきがどのようにして日本に伝わったか、その経路には不明な点があります。花水やアルコール類の蒸留の他に、船乗りたちが海水から真水を得るためにらんびきを利用していたとも伝えられています。江戸時代に発明家の平賀源内が、らんびきを使った「薔薇露」(ローズウォーター)の作り方を紹介しました。これによって江戸時代にはバラ水を使った化粧水「花の露」が江戸の女性たちの間で大流行しました。江戸の庶民に広く愛され、らんびきは化粧文化においても無くてはならないものになりました。らんびきから作られる蒸留水はわずかなため、現在では商業利用されることはありませんが、ハーブやアロマテラピー愛好家の間では、アランビック蒸留器やらんびきは静かなブームになっています。らんびきを用いると家庭でアロマウォーター作りが楽しめます。
らんびき内部 画:Wikipedia
らんびきの使い方
1. 最下段に植物(ハーブや花など)と精製水(またはミネラルウォーター)を入れます。
フレッシュハーブ、ドライハーブどちらも利用出来ますが、フレッシュの方が香りが良いで
す。入れる量は精製水約500mlに対して、フレッシュハーブならば約50g、ドライハーブなら
ば20g程度が目安です。
2. 中段の口にゴム管をセットします。
3. 最上段に氷(もしくは保冷剤)を入れます。
氷を入れる場合は、途中で水になるので、すくい出すための「おたま」も用意します。
4. 湯せん鍋をセットして、最下段、中段、最上段の順に乗せます。
口部分が鍋の外に出るよう、湯せん鍋は高さ9cm以内のものを用意します。
5. 中火で蒸留を行います。抽出時間は約1時間〜1時間半です。
中段のゴム管から蒸留水が流れ出るため、清潔なボウルを用意します。
出来上がりは精製水に対して10%程度の量になります。(500mlならば50ml)
蒸留を終えたら
蒸留水は保存容器に入れ、冷蔵庫で保存します。使い方はアロマウォーターと同じです。ローション、パック、リネンスプレー、石鹸作りなどに利用出来ます。99%以上が水で保存性は低いので、保存性を高めたい場合は、無水エタノールや天然保存剤を加えます。
なお、最下段にハーブが煮詰まった煎剤が副次的に出来るため、ハーブ液ごとお風呂に入れたり、精製水などで薄めてローションやパック等に利用出来ます。濾したハーブ(搾りかす)は、堆肥に利用出来ます。
らんびきに向くハーブ・花
フレッシュ、ドライどちらも利用出来ますが、基本的に芳香性の高いハーブや花が向いています。出来る限り有機栽培、無農薬のハーブを選びましょう。芳香蒸留水の香りや作用は精油に比べて穏やかですが、ハーブの種類によっては光毒性などの禁忌があるため、使用に関しては個々に注意します。なお、らんびきで精油(エッセンシャルオイル)を作ることはできません。
フレッシュハーブ:レモングラス、タイム、ペパーミント、スペアミント、ゼラニウムローズ、
ローズマリー、トゥルーラベンダー、バジルなど ※葉・全草から抽出
柑橘類(レモン、オレンジ、ライム、ユズなど)※果皮部分から抽出
ドライハーブ:ラベンダー、ローズダマスク、オレンジフラワー、ローズマリー、レモンバーベナなど

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